でんえんのまぼろし
田園の幻

冒頭文

「おじさん、砂糖黍たべようか。」 宗太郎が駆けて来て、縁側に腰掛け煙草をふかしている私の方を、甘えるように見上げた。私に食べさせるというより、自分が食べたそうな眼色である。 「だって、君んとこに、砂糖黍作ってないじゃないか。」 「うん、貰って来るよ。今日はお祭りだから、誰も叱りゃしない。」 先日、夕食後の散歩の時、宗太郎が砂糖黍を二本折り取ってきて、私に食べさせたが、それがよそ

文字遣い

新字新仮名

初出

「世界評論」1950(昭和25)年2月

底本

  • 豊島与志雄著作集 第五巻(小説Ⅴ・戯曲)
  • 未来社
  • 1966(昭和41)年11月15日