むほうもの |
無法者 |
冒頭文
志村圭介はもう五十歳になるが、頭に白髪は目立たず、顔色は艶やかで、そして楽しそうだった。十年前に妻を亡くしてから、再婚の話をすべて断り、独身生活を続けている。二人の子供の世話と家事の取締りは、遠縁に当る中年の女がやってくれるし、その下に二人の女中が働いているので、彼はいつも自由でのんびりしていた。 実業界に活躍していた亡父の余光で、彼は各方面に知人が多く、幾つかの会社に関係しており、暇な
文字遣い
新字新仮名
初出
「中央公論 文芸特集」1951(昭和26)年1月
底本
- 豊島与志雄著作集 第五巻(小説Ⅴ・戯曲)
- 未来社
- 1966(昭和41)年11月15日