がぼう ――きんだいでんせつ―― |
画舫 ――近代伝説―― |
冒頭文
杭州西湖のなかほどに、一隻の画舫が浮んでいました。三月中旬のことで、湖岸の楊柳はもうそろそろ柔かな若葉をつづりかけていましたが、湖の水はまだ冷たく、舟遊びには早い季節でありました。通りかかりの漫遊客が、季節かまわず舟を出すことはよくありました。けれども、いま、この画舫は、そうした旅客のものではなく、名所を廻り歩くこともせず、長い間湖心にただよっていた後、東の岸へ戻って来ました。 船着場へ
文字遣い
新字新仮名
初出
「帝大新聞」1941(昭和16)年1月
底本
- 豊島与志雄著作集 第四巻(小説Ⅳ)
- 未来社
- 1965(昭和40)年6月25日