あな

冒頭文

一 彼の出した五円札が贋造紙幣だった。野戦郵便局でそのことが発見された。 ウスリイ鉄道沿線P—の村に於ける出来事である。 拳銃の這入っている革のサックを肩からはすかいに掛けて憲兵が、大地を踏みならしながら病院へやって来た。その顔は緊張して横柄で、大きな長靴は、足のさきにある何物をも踏みにじって行く権利があるものゝようだった。彼は、——彼とは栗島という男のことだ——、特色の

文字遣い

新字新仮名

初出

1928(昭和3)年

底本

  • 黒島傳治全集 第一巻
  • 筑摩書房
  • 1970(昭和45)年4月30日