あおおにのふんどしをあらうおんな
青鬼の褌を洗う女

冒頭文

匂いって何だろう? 私は近頃人の話をきいていても、言葉を鼻で嗅ぐようになった。ああ、そんな匂いかと思う。それだけなのだ。つまり頭でききとめて考えるということがなくなったのだから、匂いというのは、頭がカラッポだということなんだろう。 私は近頃死んだ母が生き返ってきたので恐縮している。私がだんだん母に似てきたのだ。あ、また——私は母を発見するたびにすくんでしまう。 私の母

文字遣い

新字新仮名

初出

「愛と美」朝日新聞社、1947(昭和25)年10月5日

底本

  • 坂口安吾全集 05
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年6月20日