しろのあるまちにて |
城のある町にて |
冒頭文
ある午後 「高いとこの眺めは、アアッ(と咳(せき)をして)また格段でごわすな」 片手に洋傘(こうもり)、片手に扇子と日本手拭を持っている。頭が奇麗(きれい)に禿(は)げていて、カンカン帽子を冠っているのが、まるで栓(せん)をはめたように見える。——そんな老人が朗らかにそう言い捨てたまま峻(たかし)の脇を歩いて行った。言っておいてこちらを振り向くでもなく、眼はやはり遠い眺望(ちょうぼう)へ向
文字遣い
新字新仮名
初出
「青空」1925(大正14)年2月
底本
- 檸檬・ある心の風景
- 旺文社文庫、旺文社
- 1972(昭和47)年12月10日