そうきゅう |
蒼穹 |
冒頭文
ある晩春の午後、私は村の街道に沿った土堤の上で日を浴びていた。空にはながらく動かないでいる巨(おお)きな雲があった。その雲はその地球に面した側に藤紫色をした陰翳(いんえい)を持っていた。そしてその尨大(ぼうだい)な容積やその藤紫色をした陰翳はなにかしら茫漠(ぼうばく)とした悲哀をその雲に感じさせた。 私の坐っているところはこの村でも一番広いとされている平地の縁(へり)に当っていた。山と溪
文字遣い
新字新仮名
初出
「文芸都市」1928(昭和3)年3月
底本
- 檸檬・ある心の風景
- 旺文社文庫、旺文社
- 1972(昭和47)年12月10日