なつのこはんにち |
夏の小半日 |
冒頭文
俗に明き盲というものがあります。両の目は一人前にあいていながら、肝心の視神経が役に立たないために何も見る事ができません。またたとい目明きでも、観察力の乏しい人は何を見てもただほんの上面(うわつら)を見るというまでで、何一つ確かな知識を得るでもなく、物事を味わって見るでもない。これはまず心の明き盲とでも言わなければならない。よく「自然」は無尽蔵だと言いますがこれはあながち品物がたくさんにあるというだ
文字遣い
新字新仮名
初出
「ローマ字少年」1918(大正7)年8月
底本
- 寺田寅彦全集 第一巻
- 岩波書店
- 1960(昭和35)年10月7日