なんとうたん 02 ふうふ
南島譚 02 夫婦

冒頭文

今でもパラオ本島(ほんとう)、殊にオギワルからガラルドへ掛けての島民で、ギラ・コシサンと其(そ)の妻エビルの話を知らない者は無い。 ガクラオ部落のギラ・コシサンは大変に大人しい男だった。其の妻のエビルは頗(すこぶ)る多情で、部落の誰彼と何時(いつ)も浮名を流しては夫を悲しませていた。エビルは浮気者だったので、(斯(こ)ういう時に「けれども」という接続詞を使いたがるのは温帯人の論理に過ぎな

文字遣い

新字新仮名

初出

「南島譚」問題社、1942(昭和17)年11月

底本

  • 中島敦全集2
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1993(平成5)年3月24日