おすみのれい
お住の霊

冒頭文

これは小生(わたくし)の父が、眼前(まのあたり)に見届けたとは申し兼(かね)るが、直接にその本人から聞取った一種の怪談で今はむかし文久の頃の事。その思召(おぼしめし)で御覧を願う。その頃、麹町霞ヶ関に江原桂助という旗下(これは漢学に達して、後には御目附に出身した人)が住んでいた。その妹(いもご)は五年以前、飯田町に邸(やしき)を構えている同じ旗下で何某隼人(この家は今も残っているから、姓だけは憚る

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝倶楽部」1902(明治35)年4月号

底本

  • 文藝別冊[総特集]岡本綺堂
  • 河出書房新社
  • 2004(平成16)年1月30日