くりのはな
栗の花

冒頭文

栗の花、柿の花、日本でも初夏の景物にはかぞえられていますが、俳味に乏しい我々は、栗も柿もすべて秋の梢にのみ眼をつけて、夏のさびしい花にはあまり多くの注意を払っていませんでした。秋の木の実を見るまでは、それらは殆ど雑木に等しいもののように見なしていましたが、その軽蔑の眼は欧州大陸へ渡ってから余ほど変って来ました。この頃の私は決して栗の木を軽蔑しようとは思いません。必ず立止まって、その梢をしばらく瞰あ

文字遣い

新字新仮名

初出

「木太刀」1919(大正8)年12月

底本

  • 世界紀行文学全集 第三巻 イギリス編
  • 修道社
  • 1959(昭和34)年7月20日