めいじかいか あんごとりもの 15 そのじゅうよん ロッテナムびじんじゅつ
明治開化 安吾捕物 15 その十四 ロッテナム美人術

冒頭文

一助はお加久に叩き起されてシブシブ目をさました。めっぽう寒い日だ。昨夕から風がでて波も高くなっていたから、天気はよいが、今日は仕事にアブレそうな予感がした。一助は横浜の波止場で荷役に働く俗に云うカンカン虫であった。 「今日はアブレそうだなア。行くだけムダかも知れねえや」 目をさまして顔を洗う習慣のない一助、シブシブ起きてグチの一ツも言いながら二三度手足を動かすうちに仕事着に着終っている

文字遣い

新字新仮名

初出

「小説新潮 第六巻第一号」1952(昭和27)年1月1日

底本

  • 坂口安吾全集 10
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年11月20日