からすうりのはなとが
烏瓜の花と蛾

冒頭文

今年は庭の烏瓜(からすうり)がずいぶん勢いよく繁殖した。中庭の四(よ)ツ目垣(めがき)の薔薇(ばら)にからみ、それから更に蔓(つる)を延ばして手近なさんごの樹を侵略し、いつの間にかとうとう樹冠の全部を占領した。それでも飽き足らずに今度は垣の反対側の楓樹(かえでのき)までも触手をのばしてわたりを付けた。そうしてその蔓の端は茂った楓の大小の枝の間から糸のように長く垂れさがって、もう少しでその下の紅蜀葵

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1932(昭和7)年10月

底本

  • 寺田寅彦全集 第七巻
  • 岩波書店
  • 1997(平成9)年6月5日