チューインガム
チューインガム

冒頭文

銀座を歩いていたら、派手な洋装をした若い女が二人、ハイヒールの足並を揃えて遊弋(ゆうよく)していた。そうして二人とも美しい顔をゆがめてチューインガムをニチャニチャ噛みながら白昼の都大路を闊歩(かっぽ)しているのであった。 去年の夏築地(つきじ)小劇場のプロ芝居を見物に行ったときには、四十恰好のおばさんが引っ切りなしにチューインガムを噛んでいるのを発見して不思議な感じがしたのであった。

文字遣い

新字新仮名

初出

「文学」1932(昭和7)年8月

底本

  • 寺田寅彦全集 第七巻
  • 岩波書店
  • 1997(平成9)年6月5日