マルコポロから
マルコポロから

冒頭文

マルコポロの名は二十年前に中学校の歴史で教わって以来の馴染(なじみ)ではあったが、その名高い「紀行」を自分で読んだのはつい近頃の事である。読んでみるとやはり面白い。尤(もっと)も書いてある記事のあまり当てにならないという証拠は自分の狭い知識の範囲内からでも容易に列挙されるくらいであるが、事実という事は別問題として、単に昔の人の頭に描かれた観念として見るだけでも色々の意味で面白い事が沢山にある。

文字遣い

新字新仮名

初出

「解放」1922(大正11)年4月

底本

  • 寺田寅彦全集 第七巻
  • 岩波書店
  • 1997(平成9)年6月5日