あるそうのきせき |
ある僧の奇蹟 |
冒頭文
一 久しく無住(むぢゆう)であつたH村の長昌院には、今度新しい住職が出来た。それは何でも二代前の老僧の一番末の弟子で、幼い時は此の寺で育つた人だといふことであつた。「ほ、あのお小僧さんが? それはめづらしいな。」などと村の人達は噂(うはさ)した。 先代の住職が女狂ひをして、成規(せいき)を踏まずに寺の杉林を伐(き)つて売つたりして、そのため寺にもゐられなくなつてから、もう少くとも十二三
文字遣い
新字旧仮名
初出
「太陽」1917(大正6)年9月
底本
- 現代文学大系 10 田山花袋集
- 筑摩書房
- 1966(昭和41)年1月10日