てつろ |
鉄路 |
冒頭文
一 下り一〇五列車は、黒く澱(よど)んだ夜の空気を引裂き、眠った風景を地軸から揺り動かして、驀進(ばくしん)して行った。 『いやな晩じゃねェか……』 (変ったことでも起らなければいいが) というのを口の中で噛潰(かみつぶ)した、機関手の源吉(げんきち)は、誰にいうともなく、あたりを見廻した。 『うん……』 助手の久吉(きゅうきち)も、懶気(ものうげ)に、さっきから、
文字遣い
新字新仮名
初出
「秋田魁新報夕刊」1934(昭和9)年1月13、14、16~18日
底本
- 怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像
- ちくま文庫、筑摩書房
- 2003(平成15)年6月10日