しじんろん
詩人論

冒頭文

秋の野に虫の声を聞く者、誰れか一種の幽味を感ぜざらん。渠(か)れ唯己がまゝに鳴くなり、而(しか)も人をして凄絶(せいぜつ)惋絶(わんぜつ)ならしむ、詩人の天地に於ける亦固より彼の音響なり、渠れ唯己がまゝに歌ふ、其節奏は固より彼れの節奏なり、其音響は固より彼の音響なり、而して其咨嗟(しさ)咏歎する所以(ゆゑん)のものも亦固より彼れの自ら感じ自ら知る所なり。而して聞く者之が為めに悲喜交(こもご)も至る

文字遣い

新字旧仮名

初出

「国民新聞」1893(明治26)年8月6日、12日、20日

底本

  • 現代日本文學大系 6 北村透谷・山路愛山集
  • 筑摩書房
  • 1969(昭和44)年6月5日