ねんじゅしゅう
念珠集

冒頭文

1 八十吉 僕は維也納(ウインナ)の教室を引上げ、笈(きふ)を負うて二たび目差すバヴアリアの首府民顕(ミユンヘン)に行つた。そこで何や彼や未だ苦労の多かつたときに、故郷の山形県金瓶村(かなかめむら)で僕の父が歿(ぼつ)した。真夏の暑い日ざかりに畑(はたけ)の雑草を取つてゐて、それから発熱(ほつねつ)してつひに歿した。それは大正十二年七月すゑで、日本の関東に大(おほ)地震のおこる約一ヶ月ばかり

文字遣い

新字旧仮名

初出

「改造」1925(大正14)年11月、1926(大正15)年4月

底本

  • 斎藤茂吉選集 第八巻
  • 岩波書店
  • 1981(昭和56)年5月27日