くずのうらは |
葛のうら葉 |
冒頭文
その上 憎きもかの人、恋しきもかの人なりけり。我はなど憎きと恋しきと、氷炭相容れぬ二ツの情を、一人の人の上にやは注ぐなる。憎しといへばその人の、肉を食(は)みても、なほあきたらぬほどなるを、恋しといへばその人の、今にもあれ我が前にその罪を悔ひ、その過ちを謝しなむには、いづれに脆き露の身を、同じくはその人の手に消えたしとは、何といふ心の迷ひぞや。さあれ我はこの迷ひ一ツに、今日までをしからぬ命な
文字遣い
新字旧仮名
初出
「文芸倶楽部」1897(明治30)年5月
底本
- 紫琴全集 全一巻
- 草土文化
- 1983(昭和58)年5月10日