こむすめ |
小むすめ |
冒頭文
氷の塊かとも見ゆる冬の月は、キラキラとした凄(さび)しい顔を大空に見せてはをれど、人は皆夜寒に怖ぢてや、各家戸を閉ぢたれば、まだ宵ながら四辺寂として音もなし。さなきだに陰気なる家の、物淋しさはいや増しぬ。二分じんのランプ影暗く、障子の塵、畳の破れも、眼に立ちては見えねど、病みたる父の、肉落ち骨立ちてさながら、現世(このよ)の人とも思はれぬが、薄き蒲団に包まれて、壁に向ひ臥したる後姿のみは、ありあり
文字遣い
新字旧仮名
初出
「女学雑誌」1894(明治27)年1月6日
底本
- 紫琴全集 全一巻
- 草土文化
- 1983(昭和58)年5月10日