のじのきく |
野路の菊 |
冒頭文
その一 名にしあふ難波の街の金満家、軒を並ぶる今橋筋にもこは一際眼に立ちて、磨き立てたる格子造り美々しき一搆へ、音に名高き鴻の池とは、このお家の事であらうかと、道行く田舎人の眼を欹(そばだ)てぬもなしとかや。標札に金満家てふ銘こそ打つてなけれ、今様風にその肩書を並べなば、何々会社社長何銀行頭取何会社取締役と、三四行には書き切れまじき流行紳商、名さへも金に縁ある淵瀬金三とて、頭の薬鑵と共に、知
文字遣い
新字旧仮名
初出
「女学雑誌」1896(明治29)年10月25日、12月10日
底本
- 紫琴全集 全一巻
- 草土文化
- 1983(昭和58)年5月10日