うみがめ
海亀

冒頭文

一 「かぞえると三十年以上の昔になる。僕がまだ学生服を着て、東京の学校にかよっていた頃だから……。それは明治三十何年の八月、君たちがまだ生まれない前のことだ。」 鬢鬚のやや白くなった実業家の浅岡氏は、二、三人の若い会社員を前にして、秋雨のふる宵にこんな話をはじめた。 そのころ、僕は妹の美智子と一緒に、本郷の親戚の家(うち)に寄留して、僕はMの学校、妹はA女学校にかよっていた。僕は

文字遣い

新字新仮名

初出

「日の出」1934(昭和9)年8月

底本

  • 異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二
  • 原書房
  • 1999(平成11)年7月2日