すいき
水鬼

冒頭文

一 A君——見たところはもう四十近い紳士であるが、ひどく元気のいい学生肌の人物で、「野人(やじん)、礼にならわず。はなはだ失礼ではありますが……。」と、いうような前置きをした上で、すこぶる軽快な弁舌で次のごとき怪談を説きはじめた。 僕の郷里は九州で、かの不知火(しらぬい)の名所に近いところだ。僕の生れた町には川らしい川もないが、町から一里ほど離れた在(ざい)に入ると、その村はずれに

文字遣い

新字新仮名

初出

「講談倶樂部」1924(大正13)年9月

底本

  • 異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二
  • 原書房
  • 1999(平成11)年7月2日