ゆびわひとつ
指輪一つ

冒頭文

一 「あのときは実に驚きました。もちろん、僕ばかりではない、誰だって驚いたに相違ありませんけれど、僕などはその中でもいっそう強いショックを受けた一人で、一時はまったくぼうとしてしまいました。」と、K君は言った。座中では最も年の若い私立大学生で、大正十二年の震災当時は飛騨(ひだ)の高山(たかやま)にいたというのである。 あの年の夏は友人ふたりと三人づれで京都へ遊びに行って、それから大津のあた

文字遣い

新字新仮名

初出

「講談倶樂部」1925(大正14)年8月

底本

  • 異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二
  • 原書房
  • 1999(平成11)年7月2日