じむし |
地虫 |
冒頭文
一、紅(あか)い水母(くらげ) 大都市は、海にむかって漏泄(ろうせつ)の道をひらいている。その大暗渠(あんきょ)は、社会の穢粕(かす)と疲憊(ひはい)とを吸いこんでゆく。その汚水は、都市の秘密、腐敗、醜悪を湛えてまんまんと海に吐きだす。ところが、どんな都市でも、その切り口を跨いだあたりに奇異(ふしぎ)な街があるのだ。 そこは、劃然と区切られた群島のようなもので、どこにも橋の影を落さ
文字遣い
新字新仮名
初出
「新青年」1937(昭和12)年2月号
底本
- 潜航艇「鷹の城」
- 現代教養文庫、社会思想社
- 1977(昭和52)年12月15日