ははたち |
母たち |
冒頭文
弟が面会に行くとき、今度の事件のことをお前に知らせるようにと云ってやった。 差入のことや家のことや色々なことを云った後で、弟は片方の眼だけを何べんもパチ〳〵させながら、「故里(くに)の方はとても吹雪(ふぶ)いているんだって。」と云った。するとお前は、「そうだろうな、十二月だもの。——こっちの冬はそれに比べると、故里の春先きのようなものだ。」と云ったそうだね。弟は困(こま)って、又何べんも片方
文字遣い
新字新仮名
初出
「改造」改造社、1931(昭和6)年11月号
底本
- 工場細胞
- 新日本文庫、新日本出版
- 1978(昭和53)年2月25日