ふるいむら
古い村

冒頭文

自分の故郷は日向國(ひうがのくに)の山奧である。恐しく山岳の重疊した峽間(けふかん)に、紐のやうな細い溪が深く流れて、溪に沿うてほんの僅かばかりの平地がある。その平地の其處此處に二軒三軒とあはれな人家が散在して、木がくれにかすかな煙をあげて居る。自分の生れた家もその中に混(まじ)つて居るので、白髮(しらが)ばかりのわが老父母はいまだに健在である。 斯く山深く人煙また極めて疎(そ)なるに係

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「新潮」1909(明治42)年6月号

底本

  • 若山牧水全集 第九卷
  • 雄鶏社
  • 1958(昭和33)年12月30日