はるのしんぞう |
春の心臓 |
冒頭文
一人の老人が瞑想に耽りながら、岩の多い岸に坐つてゐる。顔には鳥の脚のやうに肉がない。処はジル湖の大部を占める、榛(はしばみ)の林に掩はれた、平な島の岸である、其傍には顔の赭(あか)い十七歳の少年が、蠅を追つて静な水の面をかすめる燕(つばくら)の群を見守りながら坐つてゐる。老人は古びた青天鵞絨を、少年は青い帽子に粗羅紗(フリイズ)の上衣をきて、頸には青い珠の珠数をかけてゐる。二人のうしろには、半ば木
文字遣い
新字旧仮名
初出
「新思潮 第一巻第五号」1914(大正3)年6月1日
底本
- 芥川龍之介全集 第一巻
- 岩波書店
- 1995(平成7)年11月8日