やくどしとエトセトラ
厄年と etc.

冒頭文

気分にも頭脳の働きにも何の変りもないと思われるにもかかわらず、運動が出来ず仕事をする事の出来なかった近頃の私には、朝起きてから夜寝るまでの一日の経過はかなりに永く感ぜられた。強(し)いて空虚を充たそうとする自覚的努力の余勢がかえって空虚その物を引展(ひきの)ばすようにも思われた。これに反して振り返って見た月日の経過はまた自分ながら驚くほどに早いものに思われた。空漠な広野の果を見るように何一つ著しい

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1921(大正10)年4月1日

底本

  • 寺田寅彦全集 第三巻
  • 岩波書店
  • 1997(平成9)年2月5日