かんばらありあけにかえれ
蒲原有明に帰れ

冒頭文

僕、先月末出京しました。東京は我があこがれの都。雪のふる夜も青猫の屋根を這ふ大都会。いまは工場と工場との露地の間、職工の群がつてゐる煤煙の街に住んでゐます。黒い煤煙と煉瓦の家の並んでゐる或る貧乏なまづしい長屋に、僕等親子四人が悲しい生活をしてゐます。どうにかしてパンの食へる間だけは、乞食をしても東京を離れたくない。いつまでもこのプロレタリヤの裏町に住んでゐたい。鴉のやうに。 蒲原有明は僕

文字遣い

新字旧仮名

初出

「羅針 第五輯」1925(大正14)年4月

底本

  • 現代詩文庫 1013 蒲原有明
  • 思潮社
  • 1976(昭和51)年10月1日