はる

冒頭文

一 ある花曇りの朝だった。広子(ひろこ)は京都(きょうと)の停車場から東京行(ゆき)の急行列車に乗った。それは結婚後二年ぶりに母親の機嫌(きげん)を伺(うかが)うためもあれば、母かたの祖父の金婚式へ顔をつらねるためもあった。しかしまだそのほかにもまんざら用のない体ではなかった。彼女はちょうどこの機会に、妹の辰子(たつこ)の恋愛問題にも解決をつけたいと思っていた。妹の希望をかなえるにしろ、ある

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1923(大正12)年9月、1925(大正14)年4月「女性」

底本

  • 芥川龍之介全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年2月24日