うろこぐも |
鱗雲 |
冒頭文
一 百足凧——これは私達の幼時には毎年見物させられた珍らしくもなかつた凧である。当時は、大なり小なり大概の家にはこの百足の姿に擬した凧が大切に保存されてゐた。私の生家にも前代から持ち伝へられたといふ三間ばかりの長さのある百足凧があつた。この大きさでは自慢にはならなかつた。小の部に属するものだつた。それだと云つても子供の慰み物ではない。子供などは手を触れることさへも許されなかつたのだ。端午の節
文字遣い
新字旧仮名
初出
「中央公論 第四十二巻第三号」中央公論社、1927(昭和2)年3月1日
底本
- 牧野信一全集第三巻
- 筑摩書房
- 2002(平成14)年5月20日