バラルダものがたり |
バラルダ物語 |
冒頭文
俺は見た 痛手を負へる一頭の野鹿が オリオーンの槍に追はれて 薄明(うすあけ)の山頂(みね)を走れるを ——あゝ されど 古人(いにしへびと)の嘆きのまゝに 影の猟人なり 影の野獣なり 日照りつゞきで小川の水嵩が——その夕暮時に、この二三日来の水車(みづぐるま)の空回りを憂へたあまり、蝋燭のやうにめつきりと耄碌してしまつた私と此の水車小屋の主人であるところの雪太郎と、ふるへ
文字遣い
新字旧仮名
初出
「中央公論」1931(昭和6)年12月
底本
- 牧野信一全集第四巻
- 筑摩書房
- 2002(平成14)年6月20日