ふみづかい |
文づかひ |
冒頭文
それがしの宮の催したまひし星(ほし)が岡(おか)茶寮(さりょう)の独逸会(ドイツかい)に、洋行がへりの将校次を逐(お)うて身の上ばなしせし時のことなりしが、こよひはおん身が物語聞くべきはずなり、殿下も待兼(まちか)ねておはすればと促されて、まだ大尉(たいい)になりてほどもあらじと見ゆる小林といふ少年士官、口に啣(くわ)へし巻烟草(まきタバコ)取りて火鉢(ひばち)の中へ灰振り落して語りは始めぬ。
文字遣い
新字旧仮名
初出
「新著百種 第12号」吉岡書籍店、1891(明治24)年1月28日
底本
- 舞姫・うたかたの記 他三篇
- 岩波書店、岩波文庫
- 1981(昭和56)年1月16日