ピエル・フォンほうもんき
ピエル・フオン訪問記

冒頭文

一 R村のピエル・フオンの城主を夏の間に訪問する約束だつたが、貧しい生活にのみ囚はれてゐる私は、決してそれだけの余暇を見出す事が出来ずにゐる間に、世は晩秋の薄ら寂しい候(ころ)であつた。私の尊敬する先輩の藤屋八郎氏は、欧洲中世紀文学の最も隠れたる研究家で、その住居を自らピエル・フオンと称んでゐた。が、藤屋氏は近々永年の「城住ゐ」を打切つて新生活(何んなかたちのものかをおそらく私には想像も及ば

文字遣い

新字旧仮名

初出

「時事新報」時事新報社、1930(昭和5)年12月18、19、21日

底本

  • 牧野信一全集第四巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年6月20日