てがみ |
素書 |
冒頭文
一 「マダムの御気嫌はどう? 今日は?」 山崎の顔を見るなり私は、部屋の入口に突立つたまゝ凝つと、訊ねた。——「君の顔色には何だか生気がない、病的といふほどのことではなしに……。眼つきが何となく悸々(おど〳〵)としてゐる、今日も!」 「さうだらう、俺は——」と山崎は、私がもつとさういふ風な彼に関する批評を続けるであらうことを、別段に何の不安を持つこともなく待ち構えるやうに、ぼんや
文字遣い
新字旧仮名
初出
「新潮 第二十三巻第九号」新潮社、1926(大正15)年9月1日
底本
- 牧野信一全集第三巻
- 筑摩書房
- 2002(平成14)年5月20日