そうしゅんのひところ |
早春のひところ |
冒頭文
一 そのころ私は、文科の学生でありましたが、小説といふものにいさゝかの興味もなく——といふよりも小説の類ひを読んだことがなかつたので——主に西洋の哲学や科学の書に親しみ、興味と云へば星の観測ぐらゐのものでした。ほとんど友達といふものもなく、大概自分の部屋に引込んで、何かこつこつと机の上で辞書を引いたり、書抜をこゝろみたりしながら漫然と孤独の時間を過して居るといふ風でした。——夜になると芝
文字遣い
新字旧仮名
初出
「早稲田文學 第一巻第五号」早稲田文學社、1934(昭和9)年10月1日
底本
- 牧野信一全集第五巻
- 筑摩書房
- 2002(平成14)年7月20日