にほんばし |
日本橋 |
冒頭文
一 (第一日)快晴——私は八時に起床して、いでたちをとゝのへ、首途(かどで)の乾杯を挙げ、靴を光らせ、そして妻の腕を執り、口笛の、お江戸日本橋——の吹奏に歩調を合せながら、この武者修業のテープを切つた。麗かな朝陽のなかには、もう春の気合ひが感ぜられる。 これから旅へ向はうとする気色ばんだ汽関車、終夜の旅を終へて眠りの庫(くら)に入らうとする車達の入り乱れた響きを脚下に感じながら八重洲口へ向ふ長
文字遣い
新字旧仮名
初出
「時事新報(夕刊)」時事新報社、1931(昭和6)年2月21日~3月1日
底本
- 牧野信一全集第四巻
- 筑摩書房
- 2002(平成14)年6月20日