へんそうきたん |
変装綺譚 |
冒頭文
一 図書館を出て来たところであつた、たゞひとりの私は——。脚どりが、とてもふわ〳〵してゐるのを吾ながら、はつきりと感じてゐたが、頭の中に繰り拡げられて行く夢の境と今、其処に足が触れてゐる目の前の風景とが難なく調和してゐるので、面白気に平気で歩いてゐた。 あわたゞしく目眩しい街であつた。真夏の日暮時であつた。濤のやうな——騒音が絶え間なく渦巻いてゐる賑やかな大きな四ツ角であつた。音響
文字遣い
新字旧仮名
初出
「新潮 第二十七巻第十号」1930(昭和5)年10月1日
底本
- 牧野信一全集第四巻
- 筑摩書房
- 2002(平成14)年6月20日