ゆきげしき |
雪景色 |
冒頭文
一 滝は、あまり創作(小説)のことばかり想つてゐるのが重苦しくなつたのでスケツチ箱をさげて散歩に出かけた。——石段を降つて、又ひよろ〳〵と降つて行く海辺へ近い松林の中途であつた。彼は、風景よりも人通りを気にして小径を出はずれると頭につかえる松の矮林の中へ腰をかゞめて姿を没した。そして、丘の切れ端に来て月見草の間に胡坐をした。遥かの距離だが、灰色に光つてゐる砂地に風にもてあそばれてゐる風呂
文字遣い
新字旧仮名
初出
「文藝春秋 第五巻第九号」文藝春秋社、1927(昭和2)年9月1日
底本
- 牧野信一全集第三巻
- 筑摩書房
- 2002(平成14)年5月20日