どくけ |
毒気 |
冒頭文
一 「傍の者までがいらいらして来る。」 私が、毎日あまりに所在なく退屈さうに碌々(ごろごろ)としてゐるので、母も、相当の迷惑をおしかくしながら、私のために気の毒がるやうにそんなことを云つた。——「折角、みんなと一処に来てゐるのにね。」 「えゝ、だけど別段、——別段、どうもね、これと云つて……せめて海でもおだやかになつて呉れると好いんだがな。」と、私はぼんやり天井を視詰めたまゝ呟い
文字遣い
新字旧仮名
初出
「中央公論 第四十一巻第一号(新年号)」中央公論社、1926(大正15)年1月1日
底本
- 牧野信一全集第二巻
- 筑摩書房
- 2002(平成14)年3月24日