さいこん |
再婚 |
冒頭文
こんな芝居を観に来るんぢやなかつた——と夫は後悔した。彼は、細君がどんな顔をしてゐるか気になつて、一寸横目をつかつた。——「チヨツ、怪しからんぞ!」 細君は夫のことなど毛程も意識にいれてゐないらしく息を殺して舞台を眺めてゐた。 夫は、彼女のことばかしが気に懸つてもう芝居の筋なんて目茶苦茶になつた。が何でもそれは、女房が新しい思想とか何とかに眼醒めて、同時に新しい恋人を得て夫の許
文字遣い
新字旧仮名
初出
「随筆 第二巻第二号」随筆発行所、1924(大正13)年3月1日
底本
- 牧野信一全集第二巻
- 筑摩書房
- 2002(平成14)年3月24日