もものあるふうけい
桃のある風景

冒頭文

食欲でもないし、情欲でもない。肉体的とも精神的とも分野をつき止めにくいあこがれが、低気圧の渦(うず)のように、自分の喉頭(のど)のうしろの辺(あたり)に鬱(うっ)して来て、しっきりなしに自分に渇(かわ)きを覚(おぼ)えさせた。私は娘で、東京端(はず)れの親の家の茶室(ちゃしつ)作りの中二階に住んでいた頃である。私は赤い帯を、こま結びにしたまま寝たり起きたりして、この不満が何処(どこ)から来たものか

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝」1937(昭和12)年4月号

底本

  • 愛よ、愛
  • パサージュ叢書、メタローグ
  • 1999(平成11)年5月8日