びょうぼうにたわむはな |
病房にたわむ花 |
冒頭文
春は私がともすれば神経衰弱になる季節であります。何となくいらいらと落付(おちつ)かなかったり、黒くだまり込んで、半日も一日も考えこんだりします。桜が、その上へ、薄明の花の帳(とばり)をめぐらします。優雅な和(なご)やかな、しかし、やはりうち閉(とざ)された重くるしさを感じます。日本の春の桜は人の眉(まゆ)より上にみな咲きます。そして多くは高々と枝をかざして、そこにもここにもかしこにも人を待ちうけま
文字遣い
新字新仮名
初出
「女性改造」1924(大正13)年4月号
底本
- 愛よ、愛
- パサージュ叢書、メタローグ
- 1999(平成11)年5月8日