ひょうはく |
漂泊 |
冒頭文
一 曇ツた日だ。 立待崎(たちまちさき)から汐首(しほくび)の岬(みさき)まで、諸手(もろて)を拡げて海を抱いた七里の砂浜には、荒々しい磯の香りが、何憚(はばか)らず北国(ほくこく)の強い空気に漲ツて居る。空一面に渋い顔を開いて、遙かに遙かに地球の表面(おもて)を圧して居る灰色の雲の下には、圧せられてたまるものかと云はぬ許りに、劫初(ごふしよ)の儘(まま)の碧海(あをうみ)が、底知
文字遣い
新字旧仮名
初出
(一)「紅苜蓿」1907(明治40)年7月号
底本
- 石川啄木全集 第三巻 小説
- 筑摩書房
- 1978(昭和53)年10月25日