あさばたけのいちや |
麻畑の一夜 |
冒頭文
一 A君は語る。 友人の高谷君は南洋視察から新しく帰って来た。日本でこのごろ流行する麻つなぎの内職に用いる麻は内地産でない。九分通りはマニラ麻である。フィリピン群島に産する麻のたぐいはすべてマニラ麻の名をもって世界に輸出されている。高谷君が南洋へ渡航したのも、この製麻事業に関係した用向きで、もっぱらこの方面の視察にふた月あまりを費して来たのであった。 フィリピン群島にはた
文字遣い
新字新仮名
初出
「慈悲心鳥」国文堂書店、1920(大正9)年9月
底本
- 鷲
- 光文社文庫、光文社
- 1990(平成2)年8月20日