ばいしゅんふリゼット
売春婦リゼット

冒頭文

売春婦のリゼットは新手(あらて)を考えた。彼女はベッドから起き上(あが)りざま大声でわめいた。 「誰かあたしのパパとママンになる人は無(な)いかい。」 夕暮は迫っていた。腹は減っていた。窓向(まどむこ)うの壁がかぶりつきたいほどうまそうな狐色(きつねいろ)に見えた。彼女は笑った。横隔膜(おうかくまく)を両手で押(おさ)えて笑った。腹が減り過ぎて却(かえ)っておかしくなる時が誰にでもある

文字遣い

新字新仮名

初出

「三田文学」1932(昭和7)年8月号

底本

  • 愛よ、愛
  • パサージュ叢書、メタローグ
  • 1999(平成11)年5月8日