一 Y君は語る。 明治十年、西南戦争の頃には、わたしの家(うち)は芝の高輪(たかなわ)にあった。わたしの家といったところで、わたしはまだ生まれたばかりの赤ん坊であったから何んにも知ろう筈はない。これは後日になって姉の話を聞いたのであるから、多少のすじみちは間違っているかも知れないが、大体の話はまずこうである——。 今日(こんにち)では高輪のあたりも開け切って、ほとんど昔の