かやくこ |
火薬庫 |
冒頭文
例の青蛙堂主人から再度の案内状が来た。それは四月の末で、わたしの庭の遅桜も散りはじめた頃である。定刻の午後六時までに小石川の青蛙堂へ着到(ちゃくとう)すると、今夜の顔ぶれはこの間の怪談会とはよほど変わっていた。例によって夜食の御馳走になって、それから下座敷の広間に案内されると、床の間には白い躑躅(つつじ)があっさりと生けてあるばかりで、かの三本足の蝦蟆(がま)将軍はどこへか影をひそめていた。紅茶一
文字遣い
新字新仮名
初出
「子供役者の死」隆文館、1921(大正10)年3月
底本
- 蜘蛛の夢
- 光文社文庫、光文社
- 1990(平成2)年4月20日